学び舎

東京都杉並区荻窪に「グルッペ」という八百屋があります。稲津恒巳さんと、由紀子さん夫妻が40年以上前にはじめたお店で、僕の学び舎です。恒巳さんが言いました。

「八百屋はただの売り子ではいけない。野菜がいかにして育っているか、それを知らなければならない。」

そうして群馬県富岡市の郊外に畑を借りてスタッフの野菜教育の場としました。7年前、僕もグルッペファームで田んぼの手植えを経験しました。初めて植えたその苗は、植えるというよりもちょんと置くようなイメージで実に頼りない。風で倒れやしないかと心配にもなりましたが、1種1週間後に再度おとずれたとき、苗たちは見事に空を向いてそろっていました。立派に育っていくのだと思いながら、1本の苗を撫でると、思った以上にしっかりと立っています。次に思いきって少し引っ張ってみると、なんとびくともしません。次にもっと思いっきり抜こうとすうるつもりで引っ張ってみても、やはりびくともしませんんでした。たったの1週間で、苗は見事に根を張っていたのです。

野菜は生きている。今でこそ当たり前に思えるその事実を、植物の生命力を僕に教えてくれたのは、ちいさなちいさな1本の苗でした。

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