食のそもそも話 72 ✳︎ 土耕と水耕(後編)「どうして味がちがう?」
【前説】
食のそもそもシリーズは2023年2月にスタート。
ほぼ毎週1話ずつ、野菜のあれこれページに綴っています。
内容は、野菜や調味料の目利きとその仕組みについて整理しています。
食の ” そもそもの知識 ” をみなさまと一緒に手に入れたら、新しい社会が見られるだろうと信じています。
このシリーズはその第一歩。
文字だと伝わりにくい分野です。
ぜんぶが書き終わったら動画や音声で発信していくつもりです。
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土耕と水耕(後編)
「どうしてちがうのだろう?」
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水耕で野菜を育てるということは、液肥(化学肥料の液)で育てることになります。
水に根っこが浸かったところに液肥を入れているのか、あるいは始めから出来上がった液肥で育てているのか、方法は色々あると思いますが、いずれにしても液肥に入っている栄養素が野菜にカタチを変えていくわけです。
栄養には味があると言われています。
以前、薬膳の先生に教わった話では、身体が今求めている栄養が入ってくると「美味しい」と感じると教わりました。
食べることは生きることですから、道理に合っていると思います。
また日本食用塩研究会さんが出している小冊子「正しい塩の選び方」の18ページにも似た様なことが書いてあります。
(抜粋・・・塩化ナトリウム = 塩辛味、硫酸カルシウム = 甘い無味、塩化マグネシウム = 旨い苦味、塩化カリウム = キレのある酸味、硫酸マグネシウム = コクのある苦味)
身体は約90種類の元素で出来ていて、日々使われて、食べ物から補うことが出来ないと言われていますので、元素 = 栄養の種類が多様なほど「味わい」になるのだろうと思います。
10年ほど前にワインの飲み比べをしたことがあります。
それは片方はオーガニックワインでもう一方は慣行栽培(農薬使用)のワインでした。
オーガニックワインは始めは優しく後には舌の各箇所に広がるような余韻がありました。
一方で慣行栽培のワインは始めにパンっと美味しく、後にはスンと味が無くなるような感じでした。
まあ、このワインの飲み比べは作り手が違いましたのできちんとしたABテストにはなっていないと突っ込まれてしまいそうです。
そこでもうひとつエピソードを。
これも10年ほど前だったと思いますが、東京ビックサイトで開かれた食の見本市に味醂(みりん)の角谷文治郎商店さんがブースを出していました。
社長の角谷利夫さんがお一人で立たれ、味醂の飲み比べを行っていました。
ふたつの味醂を渡されました。
ひとつは有機の材料だけでつくった味醂、
一方は減農薬の材料でつくった味醂、
どちらも角谷文治郎商店さんがつくられた商品で、レシピも一緒とのことでした。
その飲み比べでも、やはりワインと同じ感想でした。
有機は始めはやさしく後に広がる余韻の味、減農薬の方は味にパンチがあり後にはすっと無くなる味。
誤解が無いよう、あくまでどちらも美味しい味醂です(後者もアニメ「バーテンダー 神のグラス」4話で登場したほどです)。
話を本題に戻しますが、水耕栽培は人工の液肥で育てます。
工場は病原菌を嫌うでしょうから、自然なものは排除されて、野菜が育つ15〜17種類の化学肥料で作られた液肥なのだろうと思います。
一方で土耕栽培では、それだけではない他の栄養が入る余地があります。
微生物の量は農薬や化学肥料を使うほど減ると言われていますが、それでも水耕栽培とくらべれば土耕栽培の方が味わいに複雑さが生まれ、さらに微生物が多い畑ほどより味わいに広がりが生まれる。
そうしたものだろうと今のところは結論づけています。
2024年10月31日 月田商店 月田瑞志